先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。
以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。
Precious ―ターン 3―
まったくとんでもない厄日になってしまったものだと思う。 冬至間近のこの時節、医院を出る頃にはあたりはすっかり夜の気配に包まれていたが、 まだ今日という一日が終ったわけではない。 家に戻り、ひとまずデリバリーのピザとスープという簡単な夕食を摂ってから、直江は高耶の父に連絡を取った。 突然、高耶の骨折を知らされて、仰木は一瞬絶句し、すぐに矢継ぎ早に問い掛けてきた。 受話器越しから伝わるその驚愕や心配は、親ならば当然の心情でもあったから、 直江は医師から聞かされた診断結果と今後の経過について一つ一つ丁寧に説明していった。 骨折といっても比較的軽微なもので手術も入院も不要なこと。 特に無理してこじらせない限り後遺症の心配もないこと。 ギブスは二週間程度ではずせるし、松葉杖をつかえば日常生活にも支障はないが、腫れが退くまでの数日は安静が必要なこと。 ついては出来る限り自分も付き添うから、学校を欠席する間、主治医の近いこの家でこのまま療養させてもかまわないだろうか。等々。 順を追った直江の言葉に、最初は今晩中にでも息子を引き取りにきそうな勢いだった仰木の焦燥も解消したらしい。 なにより高耶と電話を代わって直接本人から容態を確認した後は、冷静に今の状況――― 無理に高耶を赴任先に連れ帰るよりは、住み慣れた今の環境の方が望ましいこと――― を判断したらしく、 直江が再び応対を代わった時には、心底申し訳なさそうに高耶のことを頼んできて、もちろん、直江は二つ返事でその願いを引き受けたのだった。 さて、肉親の次は学校にも事情を知らせなくてはならない。 普通の病欠なら当日朝の連絡で事足りるが、今回は担任にも直接話したほうがいいだろうと、そんなことを考えて、ふと今まで聞きそびれていたことを思い出した。 「そういえば高耶さん、携帯落したのはどのあたり?誰かが拾って届けてくれていればいいんですが……交番に訊いてみましょうか?」 不自由な足ならなおのこと、使い慣れたツールが手元にないのは不便だろうと、その程度の意味合いだったのだが。 そのなにげないはずの問い掛けに、それまで口数の少なかった高耶がびくんと竦みあがった。不用意に生傷に触れられた、そんな感じだった。あの、昼間の胸騒ぎが甦ってきた。 息を潜めて応えを待つ直江とは視線を合わせず俯いたまま、やがて高耶は小さく言った。 「落したの、学校なんだ。でも先生のとこには届いていないと思う……。あそこ、高等部の敷地だし、滅多に人も通らないから……」 ぐらりと、足元の大地が揺れた気がした。 |