先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。
以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。
Precious ―きよみず 3―
(ばかなっ!) だが心で叫んだ言下の否定も、すぐには声にならなかった。 そう唐突に問い掛けてきた高耶の真意がつかめなくて。そして自分の迷いを彼に見透かされている、そんな後ろめたさがあって。 言葉を詰らせ眼を瞠る直江のことを、凝と高耶が見つめている。 嘘はつけない。言い逃れもできない。 けれど、自分でさえ持て余すこの感情をいったいどこから説明すればいいのだろう。 「…迷惑だなんてとんでもない。私はずっとあなたの傍にいたいです。でも、高耶さんは?高耶さんはどうしたいの?」 口を開くにはずいぶんと時間が掛った。 そのわりにはただボールを投げ返すような答えにしかならないことが我ながら情けないけれど、結局、一番大事にしたいものは彼の意志なのだと直江は思う。 自分に高耶が合わせる必要はない。彼が思うように生き幸せでいてくれることが自分の望み。自分の幸福なのだと。 強さを秘めた高耶の視線。凛とした表情に改めて気づかされた。 「オレ?オレは……」 放ったのと同じ質問を投げ返された黒曜の瞳が、いったん湯飲みへと伏せられた。 しばらくそうしていて、再び高耶は決然と面をあげた。 「オレ、直江が好きだ。もうずっと前から、好きだった」 まさしく、晴天の霹靂だった。 「お隣のお兄さん…とか。そういうんじゃない。誰か女の人を想うみたいに直江のことが好きなんだ」 噛みしめるように、高耶が言った。 「ヘンなのは解ってる。あの、先輩とおんなじだってことも。だから聞きたいんだ。こんな気持ち持たれてるって知っても、まだ迷惑じゃない?ここで一緒に暮らしててもいいの?」 畳み掛けるように彼は続ける。 聞きたいといいながら、まるで答えが返されるのを怖れるみたいに。 「気持ち悪いって思われても仕方ないって思ってる。だから、正直に言ってほしい。直江がイヤだったら、オレ、ここを出てくから。……お父さんのとこに戻るから」 しだいに小さくなる声が、頼りなげにすぼまる肩が、彼がこの告白でどれほどいたたまれぬ思いをしているのかを知らせてくる。 たまらずに椅子を蹴り立ち、彼の傍に跪いて細い身体を抱きしめた。 「私もです。私も高耶さんのことが大好きです……愛しているんです。あなたと同じぐらい、いえ、たぶんそれよりもっと前から」 彼の頭を肩に載せるようにして抱きしめてしまったから、その瞬間の彼の表情は解らない。 けれど、こくりと喉が動いて、彼の鼓動が早まるのは感じられた。触れている肌がほかほかと温まって、一度は固く強張った身体がゆるやかに解けていくのも。 おずおずとした仕草で彼の腕が持ちあがって背中に回される。 高耶にも抱きしめられるという夢のような至福に酔いながら、直江は高耶の耳元に、好きです愛してますと、馬鹿みたいに繰り返していた。 清水の舞台から飛び降りる気分っていうのは、きっとあの時みたいなことを言うんだろうなと、高耶が感想を洩らしたのはずっとずっと後のこと。 修学旅行で実際に清水寺を見学してからでさえ、ずいぶんと日が経ってからだった。 彼の勇気がなければ告白さえままならなかった直江は、ただ恥じ入るばかりだけど。 つい俯いてしまう男の顔を、解ってねーなと、高耶が下から覗き込む。 「おまえが山のようにクッション抱えて危なくないようフォローしてくれるの解ってるから。だから、オレ、安心して後先考えず飛んだり跳ねたり出来るんだけど?」 そう言って、にんまり微笑む表情はもう少年というよりは青年のもの。 それも道理、あの夜から四年が過ぎて、十八になった高耶は、もうすぐ大学生になろうとしていた。 |