先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。
以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。
Precious ―いとしいひと 1―
仰木には、今、結婚を考えている女性がいるのだという。 あの後、長い抱擁を解いた後で、ぽつりぽつりと高耶が語った。 怪我のこともあり、その女性とその子どもである六つになる女の子と、休みの間中、ほとんど家族同然にして過ごしたと。 そして休みの最後に父に問われた。 こちらに戻ってきて、新しく増える家族と一緒に暮らす気はないか?と。 「子どもの扱いがわからなくて、辛い思いをさせて悪かったって謝ってくれた。…そんなふうに昔のことをお父さんが話すの、初めてだった。 ……お母さんが心の病気になって仕方なく離婚したことも、オレに三つ違いの妹がいたことも聞かされた。 お父さん、相手の人の子ども見てて、妹のこと、もしも手元で育てていたら…って思うようになったって。 もう一度、新しい家庭を築きたい。せっかく難関突破して入った学校だから無理強いはしないけど、出来たらオレにもその和の中にいてほしいって。正直、悪くないな…って思った」 泣きべそのような顔で高耶が笑う。 「お父さんがいて、お母さんがいて。おしゃまで生意気ででもとっても可愛い妹までいて。毎日、みんなでご飯食べてテレビ観てしょーもない感想言いあって。 なんでもないようなことでばか笑いして。そんなふうに賑やかに暮らしていけたら楽しいだろうなって。……直江もいてくれたけど、今までは、ずっとお父さんと二人だったから」 その言葉に、つきんと胸が痛んだ。 直江の表情に気づいてか、高耶が慌てたように付け加える。 「直江といるのは楽しかったよ?おばさんといるのも。でも、やっぱりおばさんはおばさんで、お母さんっては呼べなかったから」 ああ、と、内心で嘆息した。 可愛いお隣りさんに心を砕いたあの頃や、その後の浅からぬ付き合いを思い出して。 屈託のない笑顔を向けてくれた小さな胸のうちに、彼は、いったいどれだけの寂しさを抱え込んでいたのだろう。 確かに高耶は、自分たち一家に懐いてくれたし慕ってくれた。 それが本心だったとしても、やはり、肉親の情とは別物なのだ。 彼も気づかなかった奥底の心情をはじめて垣間見た思いがした。 深刻な顔をする直江を心配そうに高耶が見つめる。 「……ずっと、直江のことが好きだった。あんなことがあって思い知った。その……直江とだったらイヤじゃないって。 でも、男だし。こんな気持ちを直江に気づかれるのが怖かった。けど、いざ休みで離れてみたら、ほっとするより、好きって気持ちの方が大きかった……」 そう言って、高耶は、見ているこちらがどうにかなりそうなぐらい切ない瞳をした。 「狡いって、自分でも思う。でも、お父さんから戻って来いと言われたとき、チャンスをもらった気がした。直江の気持ちを確かめてもし嫌われたとしても逃げ道があるんだって。 ……このままずっと自分の気持ち押し殺したままでは、今までのようにはやっていけそうになかったから。だから……」 「あなたって人は本当に……」 赤くなって俯く彼を、感極まってもう一度抱きしめた。 彼は自分の生きる道標。この世にたった一人のPreciousだ。 その彼が自分を選んでくれた。この後も伴に道を歩んでくれる、その至福に目が眩みそうだった。 でも、それならなおのこと――― 逆らわない彼の肩をそっと押し、間近に眼と眼を合わせて、直江は、おそらく高耶の望みとは違う言葉を口にした。 「もしも転校することに抵抗がないなら。此処にいる大きな理由が私だとしたら。あなたは一度お父さんの許に戻るべきだと思います」 「!」 |