はじめに


先年、月花草さま宅に、拙作「Precious 誕生日のおくりもの」をもらっていただきました。

以下は、その続編になります。
本当は「僕が遊んであげる」の台詞を書きたいゆえのお話だったはずなのですが。
・・・・・・どんどんどんどん膨らんじゃって、差し上げものだけでは収まらず(苦笑)
結局自分ちで続けることとあいなりました。
月花草さん、こちらに続けさせていただくこと、ご了解くださってどうもありがとうございました。











Precious ―いとしいひと 2―



思ってもみなかった意外な台詞に、高耶の瞳が大きく見開かれた。
「…なんで?やっぱり、オレなんか…」
慄く唇が紡ぐ続きは充分予想がついたから、力を込めて遮った。
「違います。逆ですよ。あなたが好きだと言ってくれたから、私もあなたを手放す勇気が持てたんです」
「だからなんで?好きなら一緒にいたいって思うのが当たり前じゃない?」
とても納得などできないのだろう、必死の風情で言い募る。
誰よりも愛しく思う人をこんな不安に陥れて申し訳なく思う。けれど、今回ばかりは譲るわけにはいかない。
高耶の瞳を見つめながら、なにをどう話したらいいものか、直江はしばらく逡巡した。

「去年の運動会のときでしたか、兄がふと洩らしたことがあるんです。あなたには家族というものに憬れがあるんじゃないかって。 ……その通りだと思いました。
私や兄には五月蝿いぐらいの家族の思い出があるけれど、高耶さんはそうじゃない。 だから、あの時は、ばかみたいに賑やかな応援やお弁当つきの一日をただ愉しんでほしかった。
でも仰木さんが結婚なさるなら。 代用品の私たちがしゃしゃり出るまでもない、 あの運動会みたいな思い出を、本当の家族になる人たちと一緒にこれからいっぱい作っていける。
……だって、お父さんのお相手は、きっと高耶さんが『お母さん』と呼びたいって思うぐらい素敵なひとなんでしょう?」
まだ不審を残した瞳で、それでも高耶は頷いた。
「……冴子さんみたいには綺麗じゃない。でも、笑い上戸であったかいひと…」
「その女性のお子さんは?四月には一年生になるんでしたっけ?」
「うん」
薄日が射すように高耶の表情が和らいだ。
「可愛いけど、すっごい生意気。かるたなんか、少し手加減してると逆にこっちがぼこぼこに負かされたあげくにダメだしされたりする」
不満そうにしながら、口元がほころんでいる。
「その子、ほんとは外遊びが好きなんだ。まだ脚がこんなだから一緒に遊んではやれなかったけど。春休みになったら縄跳びみてやる約束した…」
そう言う彼の顔はすっかり『兄』のものになっている。すでにその母子のことを自分の家族として受け入れているのが如実にわかる表情だった。

もしも互いの想いを確認する前だったら。
高耶の世界が広がり大切な存在が増えることに対して、一抹の不安は拭えなかったろう。
でも、今は―――
「高耶さんに新しいお母さんや妹さんが出来ること、私もすごく嬉しいです」
彼に心からの祝福を贈れることが誇らしかった。
「ほら。あなたの中ですでに答えは出ているでしょう?お母さんにいっぱい甘えて妹さんともいっぱい遊んで。 今まで寂しかった分も全部埋められるように、お父さんの許にお戻りなさい。あなたの大切な家族と過ごすために」
「でも……。でも、直江は?それで平気なの?」
揺れる心をそのまま映した瞳が縋るように見つめてくる。昔、小さな彼にそうしたようにその頭をゆっくりと撫でた。
「そりゃ平気じゃいられないけれど。でも高耶さんのためなら我慢します。……暫しの別れに耐えられるだけの言葉をあなたからもらえたんですから」
ぽぽっと高耶の頬が赤くなった。慌てて視線を泳がすさまがまた可愛い。
とびきりの微笑を浮かべて、なおも直江は高耶の髪を撫でつづける。

「……小さいあなたは私に懐いてくれていたけれど。でもいつかは大人になって私の手から離れてしまう……。仕方のないことだと諦めてました。
高耶さんの言うとおり、私は男であなたも男の子で。少し年齢の離れた幼なじみ。普通に考えたらそれ以上どうにも成りようがないですから。
だからあなたがお父さんと離れてまでここで私と暮らしてくれる数年間を、精一杯大切にしようと思ってました。
でも今は違う。だって、大人になってもあなたは私の傍に留まってくれるのでしょう?
それならなおさら高耶さんは今のお父さんたちとの時間を大事にしなきゃないです。
私と暮らしていくということは―――いつまでもふたりきり。それ以上増えようがないんですから」
「直江?」
意味を掴みかねた高耶がきょとんと見上げてくる。中学生相手に先走りすぎたかと苦笑しながら軽口めいて付け加えた。
「……男同士で好きになるって、そういうことですよ?もちろん将来あなたが私を捨てて、 誰か他の女の人と結婚して子どものいる普通の家庭を築くのなら、話は別ですが」
「ばっ!」
一瞬の絶句の後みるみる紅潮した顔が、今度は真剣に睨みつけてくる。
「ばかやろう!冗談でも口にすんな、そんなこと。おまえの方こそ……いいのか?それで」
戯言に怒りながらも最後には心細さを隠せない彼を、三たび、思い切り抱きしめた。
「一生高耶さんだけです。神かけて誓いますから、だから私のものになってください…」
「……うん」

再び背中に回された手は、先程よりずっと力強くて。
この日ふたりは初めて互いの唇を触れ合わせたのだった。








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直江の理屈が解りづらい……。
もちろん高耶さんのことを思って本心でいってるんでしょうが。
将来を見据えれば、
一度親元に返して清い交際から始めないことには高耶さん勘当されてしまうだろっ!!
という管理人のフクザツな親心が……(ーー;)
あ、もうすでに清くないか……(爆)







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