バーナムと一緒 -3-





散歩が終わって家に帰れば、あとは時間との競争だ。
ドライフードを計量し、少量の野菜をトッピングしてバーナムに与えてから、自分の朝食作りに取り掛かる。
今朝は簡単にトーストとハムエッグ、それに牛乳で溶いたカップスープ。
タマゴに添えたレタスだけがバーナムとお揃いだ。
いただきますと手を合わせ、高耶が食べ始める頃には、バーナムはすでに自分の皿を空にしてきれいに舐めまわしている。
行儀良くお座りをしておねだりモードで見つめてくるけれど、これに負けてはいけないのだ。
「ダメダメ。おまえには食べられないモンばっかりだから。レタスあげただろ?それでおしまい」
自分にも言い聞かせるように、きっぱりと拒絶する。
なおも見上げてくるバーナムに後ろめたさを感じながらも振り切って、高耶はひたすら食べることに専念した。

人間の食べ物で犬に与えてはいけないものはけっこう多い。
牛乳はお腹をこわすことがあるし、チョコやネギ類はもちろんのこと、 人間には美味しく感じるパンもハムも、犬には塩味が濃すぎるのだといった知識は、この家に間借りを始めた当初、家主でありバーナムの飼い主である藤澤に教わった。
そして一緒に食べられるものでも、適量はほんの少し、人間で言えば一口程度だということも。
ええっ!そんなに少ないんですかっ?!
イチゴの目安が一個の半分と聞いたときには、思わず絶叫してしまったほどだ。わが身に引き換えたら切なすぎる。
藤澤は、そうなんだよねぇ、少ないよねぇと柔和な微笑で一度高耶の気持ちをすくいとってくれてから、でもね、と、ばっさりと落としに掛かった。
「なにしろ体格が小さいから。僕らとは体重も違えば代謝も違う。この子は僕らが大好きでだから同じものを食べたがるかもしれないけど、 むやみに与えてそれで体調を崩したら一番しんどいのはバーナムだからね。……高耶くんも気をつけてくれるかな?」
きっちり理詰めで説明されて、ただ頷くしかなかった。
犬は好きだけどこれまで自分で飼ったことはなかった。 だからこそ、ほんわかと頭に思い描いていた夢想――ただ可愛がって満足するのと、飼い主として責任を持つ愛情とは微妙に違うのだと、なんだか身の引き締まる思いがした。

「ご馳走さまでした」
食事を終えて、シンクに運び食器を洗う。
手早くケージ内のトイレの始末をし、水を取り替え、軽くリビングを掃除をする。特にバーナムの目が届きそうなところは、誤食を防ぐためにも注意深く、念入りに。
「これで、よしっと」
ぱたぱたと動き回る高耶を尻目に、バーナムは自分の居場所に陣取ってすでにうたたねの体勢でいる。
高耶がこれから出掛けること、今は遊ぶ時間でないことを知っているのだ。
「じゃあな、バーナム。いってきます」
声を掛けると、顎をベッドの縁に載せた格好のまま視線だけをちらりと流して、申し訳程度に尻尾を振ってみせた。
その少しばかり拗ねたような態度もいつものこと。高耶は苦笑を隠しながら、そっとドアを閉めて家をでた。
時刻は、八時二十分。 天気のいい日はバイクだから、余裕をもって出発できるのもありがたい。
玄関の横手、雨よけのついたカーポートから低いエンジン音が響く。
すでにバイクに跨っている高耶には見えないけれど。
この瞬間、ぴくっと耳を揺らしたバーナムは猛ダッシュで窓に張り付き、ワンワンッと吠え立てながら、 千切れんばかりに尻尾を振って、高耶へ向かって熱烈な行ってらっしゃいの挨拶をおくっているのだった。




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・・・ツンデレ??
シュナは三歳児程度の賢さと聞いたのですが。
犬だけど、確かに中身三歳児のつもりだと地で書けるかも…(殴)






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