バーナムと一緒 -6-





朝の態度に比べれば、夕方のバーナムはものすごく解りやすい。
バイクの音を聞きつけるのか高耶が家に入る前から玄関内に待機していて、 ドアを開けた途端に大騒ぎで出迎えてくれる。
「ただいま、バーナム。いい子にしてたか?」
「バウバウっ!!」
嬉しさ全開、高耶めがけて飛びついてこようとするのをいなして、逆にぐりぐりと撫でてやる。 そうしてひとしきりのスキンシップで興奮が鎮まったのを見計らってから、おもむろに室内へと移動する。
自室に荷物を置くより先に、まずはリビングやケージの様子をチェックした。
……うん。特に異常なし。散らかしてもいないし、粗相をしたりもしていない。バーナムは今日も上手に留守番が出来たらしい。
「よしよし、お利口さん。じゃ、散歩行くか?」
「ァウォーン!」
高耶の後にくっついて様子をちらちら窺っていた『彼』は、待ってましたとばかりに高らかに、遠吠えみたいに一声あげた。


五月という季節は、一年の中で一番過ごしやすい時期じゃないかと高耶は思う。
冬の寒さから解放されて、日に日に日暮れが遅くなって、 でもまだ伸び放題の雑草や薮蚊がでるには少し早くて、散歩するには格好の季節。
なにより花々が爛漫だ。
滴るような植木の緑や瀟洒な外壁を背景に咲き誇る、バラやサツキや藤の花房。 そして、高耶にとっては名も知らない、プランターに植えられた色鮮やかな春の草花。 各家ごとに趣向を凝らしたガーデニングを左右に眺めながら、朝のルートとはまた別の閑静な住宅街の路地をゆっくり歩く。
買い物袋と小さな子どもを自転車の前後に乗せてペダルを漕ぐおかあさん。三々五々、だらだら歩きながらおしゃべりに余念がないジャージ姿の中学生や レッスンバッグを手にした女の子たち。
夕暮れでもまだ充分に明るさの残る今の季節は、心なしかすれ違う人々の表情にも余裕があるみたいで、歩いているとよく声を掛けられる。 子犬の頃からこのあたりを散歩しているバーナムは、大抵の子どもたちと顔馴染みの仲なのだ。
いつものおじさんはどうしたの?と、子どもならではの遠慮のない突っ込みもあったりして、 おかげで高耶もすっかり『バーナムんちの新しいお兄さん』としてご近所に認知されるようになった。
そうして近所をぐるりと一周する頃にはさすがにあたりの風景も夕闇に沈んでしまって。
バーナムと戻る藤澤の家が見えてくるとなんだかほっとする。
「ただいま」
誰にともなく声を掛けながら再び玄関のドアを開けて、その家特有の匂いに安心する自分に気づき、本当に『我が家』になっちゃったみたいだなと苦笑する高耶だった。





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しまった、これは三話の後に入れたほうがよかったかな…と途中で思った二度目の散歩シーン
あとで入れ替えます
そして直江さんがまだでてこないよ。。。(--;)





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