片恋
―5―




直江と寝て。
彼の所有になって。
彼に負担させている金銭の、その幾らかでも身体で支払って。
そんな歪な関係になっても、まだ直江は優しかった。
己の優位を確信すると、人間は豹変する。温厚だと信じていた人物が暴君の素顔を覗かせたりもする。
そんな感情の裏表をいやというほど知っていたから、 変らず穏やかに接する直江の態度が意外なようでもありまた当然のようにも思えた。
結局この男は本物なのだと、高耶はひとり、納得する。
自分の知っている、自分の属する世界の大人たちと比べるのがそもそも失礼な話なのかもしれないと。

一緒に眠って、ご飯を食べて、それぞれの職場に向い、一日を終えてまた一緒の夜を過ごす。
元々拒む気はなかったが、求める直江は高耶以上に慎重で、決して無理強いはしなかった。
真綿でくるむように慈しまれる。まるで本当の恋人同士みたいに。
「しあわせですね」
目を細めて直江が言うから、高耶も黙って頷いた。
「このままずっと一緒にいたい」
そう思う気持ちも確かにあるから、また頷いて男の胸に顔すり寄せる。でも。
「少し、バイト減らしませんか?」
おもねるように尋ねられて、はっとした。
「誤解しないで。あなたを縛りつけようというんじゃないんです。 高耶さん、大学に行くのが夢なんでしょう? バイトを減らしてその分空いた時間を勉強に当てて受験に備えるのはどうかと思って。 ……あなたの夢をかなえるお手伝いをしたいんです」
もうずいぶん前、無造作に放り出してあった問題集のことを直江はまだ覚えていたのだ。 高耶自身でさえ諦めていた夢、ただ現実から目を逸らすためにだけ縋っていたようなそれを。
「学資は私が用立てますから心配しないで。出世払いで返せる時に返してくれたらいい」
そうしてまた借りを増やすのか?
そう思ったけど、もちろん口には出せなかった。直江が、本当に純粋な好意だけで助力を申し出ているのが解っているから。
「……一生掛ってもダメかもしんないぞ?」
「なら一生傍にいてください」
むしろその方が私は嬉しいですと、微笑いながらキスをくれて。
「……考えとく」
無理だと思うのを飲み込んで、曖昧に言葉を濁した。

一生傍にいろだなんて、なんて無茶苦茶を言ってくれるんだろう、こいつは。
そんなの無理に決まっているのに。
大体、オレなんかがいつまでも引っ付いていていい人間じゃないのに。
それでも心のこもったその言葉はふわふわのわた飴みたいにあまく、優しくて、涙が滲んだ。






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閑話休題
夢見る直江、超現実的な高耶さん
たかっちゃえよ、直江なんだからさーと外野は思うんだけど
そうしないのも、また、高耶さん。。。(ぐるぐる)





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