湯上がりの彼を恭しくソファに運ぶ。 丁寧に梳いた黒髪にドライヤーの風を当てる。 手触りのいい髪はやがてふんわりと乾き、その感触を惜しむように男は手ぐしで整えた。 その彼はぺたりと男の膝に懐き、気持ちよさそうに眼を閉じていて、いまにも眠ってしまいそうだ。そのまま寝かせてやるわけにはいかなかったから、彼の興味を引くために、男はこずるく手管を弄する。 「少しだけ待っていて……」 そう言い置いて、人肌に温めたミルクを持って戻る。 これも彼の大好物。だが、男のいない間は欲しくても口には出来なかったもの。 カップを見ただけで中身が解るのだろう。それまで背もたれに預けていた背筋がぴんと伸びて、ぱあっと表情が輝いた。 焦らないように諭す声も耳に届いているのかどうか、渡されるマグを不器用そうに両手でしっかり捉えると、顔を埋めるようにしてこくこくと飲み始めた。 幼子のような仕種を、目を細めて男が見つめる。ささくれだっていた神経が癒される思いで。こんな彼の守人になれるだけでいい……確かにそう思いながらも、やはり肉欲を捨てきれないでいる自分に自嘲する。 口から片時も離さない割には、彼の飲みかたはひどくゆっくりしたもので、カップが水平になり中の液体が干されるまではずいぶんと時間が掛かった。 その時間の間だけ男は逡巡を繰り返し、やがて、彼からカップを受け取りながら囲い込むように腕を伸ばした。 満足そうなその顔に頬ずりをする。 窮屈そうに身じろぎしながらそれでも嫌がらない様子に気をよくして、ご褒美とばかりその口にいつものボンボンを押し込んでやる。 たちまち噛み砕き、次を欲しがる彼の注意を充分手許に引きつけてから、おもむろに二つ目のその菓子を自分の口に運んで軽く歯に挟んでみせた。 横取りされた好物を取り返そうと彼が顔を近づける。 噛み付く勢いで唇に触れる。 が、砂糖菓子がすでに男の口中に収まってしまったのに気づくと、唇をこじあけ歯列を割って舌を差し入れてきた。溶けて崩れたシロップを唾液ごと貪り、吸い上げて嚥下する。親の嘴に顔を突っ込み餌をせがむ雛鳥そのままに。 そう、彼にとっては給餌そのもの。ほかに意味はない。 それでも、男は、彼から与えられる能動的な口づけに酔いしれる。 口腔内を隈なく舐めまわして、甘味がなくなれば、まやかしのキスはそれで終り。 離れようとする彼を引き止めるように、さらに一粒口に含む。 今度は砂糖の衣が溶け出さないうちに器用に彼の唇へと移してやった。
あまい戯れは際限がなく。
彼には自らを慰めるような衝動はない。
ほどなく、漣のような痙攣とともに彼が達した。
彼の生み出した白濁はかすかに花の香がした。
逸る気持ちのまま身体を裏返し、自分を受け入れてくれる場所を露わにする。 何処までも鋭い、痛みとない交ぜの喜悦に、彼が絶叫した。
―――高耶と。
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無理矢理名前だしました…(苦笑)
高耶さんじゃない高耶さんはすんごく書きにくい…と今頃反省。
次回ようやく辻褄合わせのラストです。たぶん。ようやく高耶さんしゃべります…うれしい…(涙)
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