精根尽き果てた風情でもたれかかる高耶を、直江は、改めて整え直したベッドに運んだ。 腰に巻いたタオルには血が滲んでいた。 彼の許可をもらってからそっとタオルをはずし傷の様子を確かめる。 まだ乾ききらない鮮血が鼠蹊から内股を斑に染めていて、その凄惨な血の色に心臓を握りつぶされる思いがした。 どんなに詫びても追いつかない。 今はせめて下僕のように傅くしか。 うつ伏せの下肢に顔を伏せ、無心に汚れを舐め取った。舌を這わせることで仲間の傷を癒す獣のように。 瞬間高耶は身体を強張らせたけれど、性的なものを何も感じさせない男の仕草に、やがて力を抜いて、されるに任せた。 散々昂ぶり擦り切れた神経は、もう羞恥も感じない。なにより 熱く柔らかく濃やかに動く舌先は、どんな布で拭われるより傷ついた肌に優しかったので。 そうして何度も触れられるうちに疼痛までも和らいだ気がして。いつしか高耶は泥のような眠りに落ちていった。 結局、高耶は二晩を直江の部屋で過ごした。 それは妙に現実離れした不思議であまやかな時間だった。 後ろ髪引かれる男を会社へと追いやってまどろむ独りきりの昼と、一目散に家に戻る 家主に甲斐甲斐しく世話を焼かれる夜と。 まるで安全な巣の中で守り慈しまれる雛のよう、間違いなく幸せな時間でもあった。 やわらかな寝具に包まりうとうとしながら考える。 だからこそ、いつまでもこのままでいるわけにはいかないと。 かなり強引で乱暴なやり方ではあったけど、直江からははっきり想いを打ち明けられた。 では自分は? 同じ気持ちを返せるのだろうか? 心の奥底に直江を失いたくないという強烈な我執がひそんでいたことは自覚した。 でもそれは、果たして男と同列の感情なのか、それとも肉親に向けるような子どもじみた独占欲なのか 、未だに答えを出せないどっちつかずのままでこの状況に甘えているのは、 高耶の矜持が許さなかった。 先ずは自分の足でしっかり立って。 直江似抱えるこの感情は一体何なのか、自分の想いを見極めて。 すべては、それから。 そう心に決めて、アパートに帰ると切り出したのは、ようやく身体から違和感の消えた三日目の夜のこと。 直江はひどく不安な顔をしていた。 一度手放したらもう二度と逢うことは叶わなくなるとそう思ったのかもしれなかった。 が、何も言えないまま、淡々と帰り支度を始める高耶のことを、黙ってアパートまで送り届けた。 以前と変わらぬ日々が始まった。 もっともまったく同じというわけにはいかず、直江に対する高耶の態度は少しだけ頑なになり、 直江もまた高耶を傷つけた負い目をずっと引きずることとなった。 互いが互いの恋情をうちに秘めた友人としての関係が、晴れて恋人のそれになるには、今しばらくの猶予が必要だったのである。 |