続き間になった奥の部屋の、並べて延べられた布団のひとつに彼を横たえる。 「直江……?」 急に薄暗く視界が翳って不安が募ったのだろう。縋るような声で呼ぶのに、静かに傍らに添い伏した。 「大丈夫。怖いことはなにもないから。あっためるって言ったでしょう?あなたに触れるだけです。私は消えたりなんかしない。 ほら、こうして触れ合っているところから、私を感じて…」 そう言って緩やかに抱きしめる。 固く強張っていた身体から、くたりと力が抜けるまで。 彼を―――、謀っている自覚はあった。 温もりだけをほしがる心の弱った高耶のことを、この機に乗じて手に入れるなど。 それでも止まらなかった。 彼の裡にも、己の中にも焔はある。 それを彼に知らしめたかった。 巡る季節だけではない。刹那の発する輝きは身のうちにも存在するのだ。いつでも、いつまでも。 散り落ちてなくなるあの『赤』を惜しまずとも、 わずかばかりの羞恥と怖れを捨てさえすればすぐにもそれは手に入るのだと。 そのために自分はいるのだと、まだ無垢な彼と、彼の身体に。 すでに交わしたことのある、触れるだけのキスを繰り返した。 馴染んだ口づけに陶然として高耶が小さく声を上げる、その隙を捉えて今度は口腔内に忍び込む。 深入りはしない。慣れない彼を怯えさせてはならない。少なくとも今は、まだ。 ちゅく。 差し込んだ舌先が唾液を絡め取って淫猥な音をたて、 それに驚いた彼がはっと目を見開くのを封じるように囁いた。 「……気持ち、いいでしょう?」 そう言いながら続けるのは、少しだけ湿った感触のバードキス。 ちゅっ、ちゅっ、とわざと濡れた音を響かせ。何度も何度も。 耳からも快楽に染まるように。 これから先の行為にも、知らず彼が溺れこめるように。 「ね?気持ちいいでしょう?」 なだめすかすように重ねて問えば 「んっ……!」 こちらの思惑通り。喉を鳴らしながら頷いた。 唇。耳朶。首筋。 洩らす声に彼の反応を量りながら、襟を寛げ少しずつ愛撫の手を進めた。 口唇で。掌で。 肌と肌が触れ合うのはとても心地よいことだと根気よく教え込む。 そよぐような愛し方とそこから湧き上がる快感を戸惑いながらも受けとめて、嫌がる様子がないのを 見極めてはじめて、桜色に上気したその身体から纏う浴衣を取り払った。 もう彼にも解ってしまっただろう。ただ抱きしめ触れ合うだけではすまない、この先の行為を。 思わず息を呑んで視線を上げる高耶に、ただやわらかく微笑みかける。 「……寒くはない?」 怖くはない? 厭ではない? この期に及んでさえなお、直裁にはできない問いかけ。 それでも高耶は、けなげに首を振って意思を示した。 「…………ない」 そんな彼が愛しくてたまらなかった。 では、彼は許してくれるのだ。 弱みに付け込むようなこんな男に、すべてを。 (決して後悔はさせないから) 心のうち、厳かに誓いをたてて、その鎖骨に口づけた。 |