毛皮の上蹲る彼に近づき頤に手を掛けて仰のかせる。微塵も崩れたところのない若く凛々しい面差し。
その瞳に情欲の色が浮かんでいるのが信じられないほど。 「名前は…?」 「……高耶」 そう紡ぐ唇を、陶然と見つめた。 「……綺麗な名だ」 耳朶を噛みながら体重をのせて静かに彼を押し倒した。 その拍子に裾が肌蹴て太股が覗く。と、其処から痺れるような芳香が鼻腔に届いてくらりとした。 (これは…?) 意識せぬほど微かではあったが、先ほどから薫ってはいなかったか。彼が室内にはいり立膝の姿勢で琵琶を奏で始めた頃から。 思わず彼の下肢を割り裂いた。とたんに強く立ち上る香り。 下穿きをつけず露になった彼の性器はすでに固く勃ち上がり透明な蜜を滴らせている。 けれど香りの正体は、濡れた下生えのさらに奥、秘められた場所からじくじくと溶けて滲み出る練り膏からのようだった。 「いやあ……」 まじまじと向けられる視線に彼が堪えきれぬように両手で顔を覆う。そんな仕草さえ婀娜めいて見えて。 「いやじゃないでしょう?ちゃんと準備までしてきたくせに」 隠したがるその手を無理やり剥いで両側に縫いとめた。 こんなに純真そうな顔をして。 最初から彼はそのつもりでやってきたのだ。 体内に媚薬を仕込んで自らも昂めつつ媚香で男を煽って。そうして抱かれにきた。 それを生業にする、男娼として。 ならば。 その据え膳に乗るだけだ。 「愉しませてもらいますよ。高耶さん」 圧し掛かる男の目に剣呑な光を認めて、小さく高耶が慄いた。 心が波立つのは彼の落ち度ではない。 凛とした所作、伶人としての卓越した技量。 その彼が男を惑わす手管にも長じていたとして、いったい何が悪い?むしろ夜伽には格好の付加価値ではないか。 そう己を諌めながらも、騙まし討ちにされたような苛立ちが消えず、 それを彼にぶつけることにも躊躇いはなかった。 「もうこんなにしてるんだから。あらためて可愛がる必要はなさそうだ」 滑る窄まりを無遠慮に撫でさすり嘲りを込めて呟いて、猛った己のものをあてがう。 「ああぁ―――っ!」 「くっ!」 その瞬間に衝撃が走ったのは、一気に貫かれた高耶だけでなく押し入った直江も同じだった。 悲鳴に重なるようにしゃらりと涼やかな余韻が響く。彼の内側から。狭く熱くぬめりを帯びた肉筒の中、 何かが鈴口に当たって振動したのだ。脳天まで突き抜ける、甘美な刺激だった。 もう一度、探るように抜き差しを繰り返す。 今度ははっきりと解った。人肌に温もった滑らかで硬い質感を持つ何か。異物を彼は孕んでいる。 撞球の珠のよう、こちらが撞くたびにそれは彼の体内を震えながら行き来して、漣のような官能を呼び起こすのだ。彼と自分とに。 強弱をつけた腰の動きに鈴の音が反応し、そこに高く低く鳴く彼の嬌声が被さる。 ひとつに繋がり揺さぶられることで彼の肢体そのものが共鳴し、直江の奏でる楽器に変じていく、倒錯めいた快楽の楽の音。 我を忘れて貪った。 より深く突き上げ鈴の音を響かせるために。彼の負担は斟酌せず乱暴に揺すりたてては肉襞をこそげて湧き出る悦楽と異物の蠕動とをふたつながらに楽しみ、飽かずに放った。 きわどい姿勢で男と淫具に責め苛まされて、彼も何度か前を弾けさせた。 すすり泣くように喘いで、虚ろに眼を見開いて。 「後ろでされるの、気持ちよくって仕方がない?」 ぴくぴく蠢く敏感な先端から、さらに残滓を搾り出す。 「―――っ!」 声にならない悲鳴を上げて身体が弓なりにしなった。 哀願めいた許しを彼は乞うたのかどうか。 音にならないまま、ぱくぱくと口唇だけが言葉を紡ぐ。 何を言ったのか、確かめることはできなかった。 絶頂後のきつい締め付けに、こちらも堪えきれずに迸らせ恍惚と天を仰いでその余韻に浸っていたから。 再び視線を戻したとき、組み敷いた身体はすでに力をなくしていた。 最後まで従順に身体を開いたままで、高耶は意識を飛ばしてしまったのだった。 |