もったいなくて、眠ってなんかいられない。 寝入った高耶に寄り添って、直江はその貌をじっと見つめている。 彼に少しでも近づきたくて計画したこの旅行は思いがけない大団円。 寝顔を眺めたいという密かな希は、彼のおかげで百倍返しの勢いでこうして叶ってしまったけれど。 欲には果てがない。 現に、今も、彼が欲しくてたまらない。 きつい目が隠されれば、まだあどけなささえ残る顔立ち。さらりと額に落ちかかる黒髪。ふっくらした唇。 寝息とともに微かに上下する胸元。 たまらなくなって、そっと髪に触れ、頬に触れ、規則正しい呼吸を感じては、彼の穏やかな眠りを邪魔しないよう、またそっと手を退ける。 その仕種をいったい何度繰り返しただろう。 音もなく満ちまた引いていく汐のように。 満ち欠けを繰り返す月のように。 彼さえいてくれれば、もう何も不安に思うことはない。ただ在るがままの容を、有るがままの想いを、彼だけに伝えていければいい。 (ありがとう。高耶さん。あなたに相応しく在れるよう全力で努力しますから。ずっとお傍に置いてくださいね……) たぶん、まだ、高耶本人にさえ聞かせられない言葉を胸の裡に綴る。 誓う。呪を掛ける。自分に。そして彼に。 月はとっくに中天に昇っていてもう窓越しに眺めることはかなわない。 それでも淡く白い光は、確かにこの夜を照らしていた。 |