その夜の名残、赤く残った痕のひとつひとつを男がなぞる。指で。視線で。掌で。 「すごく、キレイだ……」 うっとりと呟いては、また同じ場所に唇を寄せ、音を立てて吸い上げる。 疼痛とない交ぜになった快感を、再び高耶の身に蘇らせようとするように。 そのたび高耶はぴくぴくと身体をしならせて男の押印を受け入れる。 「…っ!……あっ…あっ!……」 荒いでいく呼吸を少しずつ声に逃がし、深まる官能を男に知らせながら。 昨夜は闇に紛れる無我夢中の行為だった。 それが今は明るい昼の光の中で隠しようもない裸身と育ちゆくオスを、逐一、男の目に晒している。 とんでもなく恥ずかしいのに、その焼けつくような羞恥が快楽を煽るひとつの要素なのだと心のどこかでは解っていたから。 恥ずかしい。けれど、すごく気持ちいい。 欲望がどんどんどんどん膨れ上がって何も考えられなくなる。 ヒトでなくサカったケモノに堕ちるよう。 でも、たぶん、それでいいのだ。霞んだ頭で考える。 直江とひとつになるのがどんなに嬉しいか、それが真っ直ぐに伝わるから――― 首筋から始まって鎖骨、胸、鳩尾、脾腹。 少しずつ愛撫は下に向かって、 それが下腹に届く頃には、もう高耶の身体はやるせないほどの情欲が滾っていて。 直江の手が太腿に掛かるのを待ち焦がれていたように、自ら脚を開いた。 「お利口さんだ。ちゃんと覚えていましたね」 褒められて、高耶がくんとあまえた鼻声をあげる。 さらに大きく広げた脚の付け根、鼠蹊のあたり。決して人目に触れない眩いほど白いその肌にも直江の所有印は残されている。 黒々とした和毛とそそりたつ若々しい性器、そのきわの青味を帯びた柔肌に浮き出る、花びらのように赤い刻印。 まったく眩暈のするような眺めから眼が離せない。 「本当に……。すごく、キレイだ」 熱い視線を注いだまま動かない男に焦れたか、 恥ずかしげに、でも強請るみたいに高耶が腰を揺らめかす。 その動きに誘われるように、口づけを落とした。 「あああっ!」 敏感な部分をきつく吸いたてられて、 とたんに喉衝く嬌声。跳ねあがる腰。 逃すまいと押さえる手に力を込め、さらにねっとりとくぼみに沿って舌を這わせた。 声もなく震える彼の分身は、やっぱりふるふると落ちなん風情で震えながらとめどなく蜜を溢れさせている。 そっと握りこんでやわやわと扱き上げる、そんな直截な刺激に、彼の身体がまた撓った。 「直江っ!……なおえぇ!」 頭を打ち振り、舌足らずに訴えてくる彼が可愛くてたまらない。 「先っぽ、舐めてほしいの?それとも、もっと強くいじってほしい?」 伺うように顔をあげ、到底選べないであろう問いをあえて彼に投げ掛ける。 何度か口を開きかけてはそのたび戦慄く唇と、泣き出しそうに顰められた眉。 詰るように見下ろしてくる潤んだ眸、赤く染まった目許。 彼の何もかもが愛しすぎて、気が狂れてしまいそう。 「そんなの、両方に決まってますね」 そう断じて彼のオスを咥えこみ、根本を強く扱き上げ、絶頂へと続く道筋をつけてやる。 程なく高耶は陥落し、腰を突き上げ白い精を直江の口腔に迸らせて、果てた。 くちゅくちゅと室内に籠もる水音。 正気だったら思わず耳を塞ぎたくなるようなその淫猥な水音も、もう高耶には届かない。 大きく胸を波打たせ、ただ男のもたらす悦楽を忘我の境地で味わっている。 昨夜まで未通だった後庭は、逐情の余韻とそよぐような愛撫ですぐに柔らかく綻びだした。 濡らした指をまず一本、ゆっくりと内部に含ませる。そうして挿しいれられた指で 快感点を散々に弄られ、高耶はあまい悲鳴を上げ続け、若い鈴口からとろとろと蜜を零す。 「ここ、もうこんなにして」 溢れさせてるのは鈴口だけではない。ぐるりと指を回せるほどに潤った肉襞は、己を犯すものに熱く絡みついて、 内部で指を動かすたび、濡れた音をいやらしく響かせる。 「んっ!……やっ…や、あっ……あ、ああっ!」 二本、三本と増やした指がてらてらと彼の体液をまとわせながら、 白くなめらかな双丘の挟間、菫色した慎ましい口を歪に押し拡げては傍若無人に出入りする。 それは、憐憫を誘う風情でいて、そのくせ、ひどく淫らな眺めで。 なによりも、彼は嫌がってはいないのだ。 辛そうに眉を顰め、波に耐えるかのように時折四肢を突っ張らせてはいても。 堪えているのは身体を裂かれる痛みではなく苦痛と紙一重の過ぎる悦楽。 その証拠に彼の肌は次第に紅潮して薔薇色を帯びる。 今朝方眠る彼を抱きしめ一人眺めた朝焼けの空のような美しい鴇色に。 小さく舌を閃かせ、何度か湿らせた赤い口唇があられもない言葉を紡ぐ。 「なおっ!……も、もうっ!!……おまえの…欲しっ!…」 虚ろな瞳を彷徨わせ、ようやく視線を絡め合わせて。 「おまえの……、挿れてっ!早くっ!」 蕩けきった思考とカラダに、このときだけ、凛とした意志を示して。迸る悲鳴みたいに。 「本当に……あなたは、なんてっ!……」 煽っていたつもりが逆に煽られて、もう直江にも余裕はない。 望まれるままに彼の内部に押し入って、後は高耶が意識を飛ばすまで、互いが互いを貪り喰らうばかりだった。 |