「あなたが好きですよ。高耶さん」 ようやく眼差しを捉えて彼に告げた。これ以上の不安な思いをさせないように。 高耶が驚いたように眼を瞠る。 その表情に、そういえば自分はまだ一番肝心な言葉を彼に伝えていなかったのだと思い当たって、 胸が詰まった。 情にほだされ成り行きで男の身体を抱くのだとでも思われていたのだろうか。 だとしたら先ほどの彼らしからぬ媚態も合点がいく。 高耶にしてみればなんとしてでも自分が積極的に誘わねばと、切羽詰まった覚悟でいたに違いない。 恥かしかったろうし、勇気がいったことだろう。 それなのに、その彼をうっかり泣かせるような真似をしてしまった。 愛しいのと切ないのと申し訳ないのと。 湧き上がる感情のまま直江は高耶を抱きしめ、かき口説いた。 「もうずっと前から好きでした。……私に懐いてくれる小さなあなたがたまらなく可愛くて愛しくて、あなたが喜ぶことなら何でもしてあげたいと思っていた。 でもそれは小さな子を慈しむ人として自然な感情、何も不思議なことではないと思い込んでいたんです。 ……あなただけが私の特別だったのに。 自覚のないまま無為に時間を過ごすうちに、あなたはどんどん魅力的に育っていって。 自分の正直な気持ちに気づいた時にはもう手遅れ。想いを封印して手放すしかないと諦めてました。 今さらあなたを手に入れようと見苦しく足掻いて嫌われるよりは、まだ思い出の中に優しいお兄さんとして棲んでいられるほうがマシだと。 ……あなたみたいに勇気を振り絞ることが私には出来なかった。そんな情けない男でもあなたはまだ好きでいてくれますか…?」 「おんなじ、だったんだ…」 しばらくの沈黙が続いて、吐息のように高耶が洩らした。 「オレも。直江が同じ気持ちいてくれてすごく嬉しい……」 ふわりと微笑む表情は、咲き初める大輪の花のよう。心からの安堵が彼の緊張を解いていく。 「愛しています…」 「うん…オレも」 ゆるゆると伊達締めに手を掛け絹鳴りの音を響かせても、もう高耶は抗わなかった。 「……とても綺麗だ。素敵ですよ、高耶さん」 しなやかに伸びる少年の身体。 露わになった肌に唇を滑らせながら、陶然として男が言う。 「んっ…んんっ!」 慣れない刺激に声を殺し身を捩る様がたまらない。けれど、必要以上に追い詰めるのは本意ではないから、 頃合をみて、直江は練り膏の器に手を伸ばした。 束の間愛撫から解放されて茫洋とその動きを追った高耶が、こくんとひとつ唾を飲む。 「…いい?」 もう一度素直に頷くのを見届けて、直江は、器の中身を指先にすくい取った。 細く長く、高耶は口で息を吐く。その身に押し入る異物を少しでも受け入れやすくするために。 直江もまた、高耶の呼吸を量りながら滑りを帯びた指を埋めこんではくゆらせ、引き抜くことを繰り返す。 翳りを帯びたきつい窄まりが緩やかに綻び、鮮やかな内部の緋色を閃かせるまで。 「あぅっ!」 突然、高耶の身体が跳ねあがった。 「…此処?」 視線を泳がす高耶を尻目に、直江は同じ部位を衝いてやる。 「やだっ!やめて、直江」 自分の身体がどうなったのかまだよく理解っていないのだろう、高耶がうろたえきった声をあげる。 だけど、聞けるわけがない。 「此処、こうされるとすごく気持ちいいでしょう?あなたの身体の中にはこんな宝物が隠れていたんですよ。……自分でしたときは気がつかなかった?」 もちろん高耶は真っ赤になって首を振る。 「じゃあ、今、気持ちよくなって。あなたがイくまで、何度でもしてあげるから」 なおも頑なに頭を打ち振る仕草にかまわずさらに内部の膨らみを押しあげると、若々しい彼のオスがびくびく撓い、とろりと蜜を滴らせた。 「駄目ぇぇ!」 射精の衝動をすんでのところでやり過したのだろう、続く制止はまるで悲鳴のようだった。 その切迫した声音が気にかかって、彼を窺う。 肩で息をしながら、高耶は涙の滲む目で切なげに直江を見おろしていた。 「オレが…っ。オレだって直江のこと、ヨくしたいのに。なのに、オレばっかり……」 一人で達くのは不本意だと。自分も愛撫を返したいのだと。 思いもつかなかったことを切れ切れに訴えられて、今度は直江が目を瞠る。 そんな自分を凝とみつめる黒曜の瞳は真剣そのもの色を湛えていた。 本当に。 このひとにはかなわない。 気丈なその眼差しを宥めるように唇を啄んだ。 同時に高耶の手を取り自らの下腹部に導く。触れさせたものの大きさに彼が慄いたのを確かめてから、直江は口を開いた。 「……解ったでしょう?あなたを見ているだけでもうこんななんです。 高耶さんがヨくなってくのを見るだけで充分なんですよ。……ね?だからもっともっと気持ちよくなって…身体中蕩けてぐずぐずになって、そして俺を迎えてください」 あなたの内部に。 息を潜めた耳元での囁きに、高耶はさらに首を振る。 「も、いいから…。平気だから」 早くひとつになりたいと。 愛しいひとにそうまで乞われては、もう陥落するしかなかった。 |